恒川光太郎『夜市』を読み終えて、しばらく本を閉じたまま動けなかった。495円という価格を考えると、正直かなり得をした気分になる一冊だ。評価4.3、レビュー件数2975件という数字が示す通り、読んだ人の多くが何かしら心を動かされているのだと思う。
表題作「夜市」は、子供の頃に迷い込んだ不思議な市場での取引を描いているが、ホラーといっても血しぶきが飛ぶような直接的な恐怖ではない。むしろ、気づいたら日常の輪郭が少しずつ歪んでいくような、静かで粘着質な不安感がじわじわと押し寄せてくるタイプだ。読んでいる最中よりも、読み終えた後にふと思い出して背筋が冷たくなる、そんな後味の悪さ(褒め言葉として)が持ち味だと感じた。
文章自体は決して難解ではなく、むしろ平易で読みやすい。民話や昔話のような語り口が、逆に「ありえそうでありえない」話に妙なリアリティを与えている。収録されているもう一篇「風の古道」も、異世界への入り口という共通したモチーフを扱いながら、夜市とはまた違った寂寥感があり、二篇セットで読むことで世界観の厚みが増す構成になっている。
ページ数はそれほど多くないため、電車の中や寝る前の数十分でも読み進めやすい。ただし、寝る前に読むと妙に想像力が刺激されて、しばらく眠れなくなるかもしれない。派手な演出に頼らず、じわじわとした違和感だけで読者を引き込む筆力は、レビュー件数の多さにも納得がいく。
ホラー初心者にも、またグロテスクな描写が苦手な人にもおすすめしやすい一冊だと思う。価格以上の読後感を求めている人には、一度手に取ってみる価値がある作品だ。
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