保険会社に勤める主人公のもとに、ある日「自殺した夫の保険金が下りるか」という問い合わせが届くところから物語は動き出す。読み始めてすぐに気づくのは、この作品が幽霊や超常現象によるホラーではなく、人間そのものを恐怖の対象として描いている点だ。価格653円という手に取りやすさからは想像しにくいほど、読後にずっしりとした重みが残る一冊だった。

貴志祐介氏の筆致は保険業務の細部まで丁寧に描き込まれており、専門的な手続きの描写がかえって現実味を増幅させている。だからこそ、その現実の延長線上に現れる「人間の皮を被った何か」としか言いようのない存在が、より一層不気味に映る。幽霊屋敷も呪いも出てこないのに、読んでいる間ずっと背中に冷たいものを感じ続けるという、珍しい読書体験だった。

3417件というレビュー数の多さは、発表から時間が経った今でも新しい読者を獲得し続けている証拠だろう。評価4.2という数字も、万人受けする派手な演出より、じわじわと効いてくる心理的恐怖を好む層に支持されていることをうかがわせる。実際、読み終えた直後よりも、数日経ってふとした瞬間に「あの人物の目が笑っていなかった」というディテールを思い出してぞっとする、そんな遅効性の怖さがある。

欠点を挙げるとすれば、中盤の保険業界に関する説明がやや長く感じられる場面があり、スピード感を求める読者にはテンポが気になるかもしれない。また、グロテスクな描写も一部含まれるため、生理的な苦手意識がある人は注意した方がいいだろう。

それでも653円という価格で、長く語り継がれるだけの読み応えを得られるのは間違いない。人間不信気味の夜にこそ、じっくり向き合いたい一冊だ。