「影との戦い ゲド戦記」を読み終えて、まず感じたのは、派手さを求める作品ではないということだ。近年の異世界ファンタジーに慣れた読者からすると、展開は決して速くないし、魔法もご都合主義的に万能ではない。むしろ魔法とは言葉と真の名前を扱う、慎重で責任の伴う技術として描かれている点が印象的だった。
主人公ゲドは若さゆえの傲慢さから禁じられた術を使い、自らの影――もう一人の自分のような存在を解き放ってしまう。そこから物語は、影から逃げるのではなく、それと向き合うための長い旅へと転じていく。この「自分自身の内なる闇と対峙する」というテーマは、ファンタジーという形式を借りた成長物語として読むことができ、児童文学的な体裁でありながら、大人が読んでも十分に手応えがある。
902円という価格で、こうした骨太な世界観とテーマ性を味わえるのはありがたい。文庫サイズで持ち運びやすく、通勤時間などに少しずつ読み進めるのにも向いていた。訳文も古さを感じさせつつ、独特のリズムがあり、群島世界アースシーの地理や文化が丁寧に積み重ねられていく様子は、設定資料を読むような楽しさもある。
評価4.5、レビュー437件という数字は、刊行から時間が経った作品としてはかなり安定した支持を示していると言えるだろう。シリーズものの一作目にあたるため、この巻だけで全てが完結する爽快感は薄いが、続刊への興味を自然に引き出す終わり方になっている。
難点を挙げるとすれば、現代のライトノベル的なテンポに慣れている読者には、序盤がやや地味に感じられるかもしれない点だ。会話よりも地の文での描写が多く、没入するまでに少し時間がかかる。ただ、それを乗り越えた先にある静かな読後感は、他の作品ではなかなか味わえないものだった。ファンタジーの原点に触れたい人、腰を据えて一冊と向き合いたい人には、十分に薦められる内容だと思う。
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